夏休みの自由研究、計画は綿密に 「見本」で完成形をイメージしよう

上手に悩むとラクになる

中島美鈴
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 今年も夏休みが近づいてきました。今回は、小学生の自由研究を成功させる秘訣(ひけつ)の後編です。

 前回までに、ADHDの主婦リョウさん親子は、娘の興味のあるもの(ハンバーグ、映える写真、人に喜んでもらう、キラキラした飾り付けなど)と、社会に役立つ結果を出せるような疑問を結びつけて、「食べ残しを防ぐ映えるハンバーグの盛り付けは何か?」というテーマ(研究疑問)を決めました。

 今回はこの疑問を解くための研究計画を立てるところまでをご紹介します。

ステップ4:研究のまとめ方の見本を見せる

 研究テーマが決まったら、まずは「完成形をイメージ」します。

 書店でもネットでも自由研究のまとめ方の見本となるレイアウトはたくさんみつけることができます。「自由研究」「まとめ方」などのキーワードで検索してみましょう。

 こうして先に完成形をイメージすると安心してとりかかることができます。

 また、子どもが「かっこいい!」と憧れたり、「わあ、こんなふうに素敵にまとめてみたい」と美術的な興味からうれしがったり、その子なりのモチベーションが上がることにもつながります。

 見本を見せながら、大事な構造を説明してください。

 論文に必要なのは「問題、方法、結果、考察、引用文献」の5要素です。この要素がそろった見本を選んで、それぞれの役割を説明します。既に研究疑問はできているので、その子どもの具体例を用いながら説明する方がピンとくるでしょう。

リョウ「この問題ってところは、なんでこの研究をする必要があるか、どんな目的でするかを書くのね。食品ロスの問題があって、ひとつは食べ残しがあるからじゃないかって言われていて、それを解決するためにハンバーグの映える盛り付け方はどれかがわかるといいのよね。」

リョウ「次は方法のところ。ここには、映えるハンバーグの盛り付け方を明らかにするための実験方法を書くのね。」「そして結果には、実験結果を書くのね。あくまでここは数値とかグラフね。」「そこからわかったことは、考察に書くのよ。これこれこういう盛り付け方が一番映えて食べ残しを少なくしていた、みたいにね。」

ステップ5:既に明らかにされていることを調べる

 構造がつかめたら、今度は既に他の研究で明らかになっている知見を調べていきます。

 ネットを利用するといいでしょう。「おいしく見せる方法」「食品」「盛り付け方」などがキーワードでしょうか。「ハンバーグ」と限定してもいいかもしれませんが、もう少し広く「肉料理」ぐらいが知見が集まるかもしれません。

 研究で明らかにされている結果もヒットするかもしれませんが、「ちまたではこう言われている」という知見も多く出回っています。

 前者の場合には、たとえば「大人を対象にした研究では、金のお皿に盛り付けた食品よりも銀のお皿に盛り付けた食品の方がおいしそうにみえる」といったことが明らかになっていれば、「今回は友達にハンバーグを食べてほしいので、子どもでも大人と同じように皿の色でおいしそうに見えると判断するのだろうか?」というより具体的な研究疑問に整えることができます。

 また、後者の場合には、「ちまたではこの色が食欲を増進するといわれてるが、本当にそうかを実験で確かめる」という目的にすることができます。

 当てずっぽうでいろんな盛り付け方をして適当に比べるよりも、こうして既に明らかにされていることを調べることで、より広い視野で研究計画を立てられますし、これまでの研究の中での位置付けがわかるようになります。

ステップ6:研究計画を立てる

 いよいよ研究計画を立てていきます。

 ここでちょっと専門的な用語をご紹介します。「独立変数」と「従属変数」という言葉です。

 研究は、こういう条件の時に(たとえば、ハンバーグを金の皿に乗せたときと、銀の皿に乗せたときとで)、どんな結果になるか(たとえば、おいしいという感想をもらえるかもらえないか、食べ残しの量など)を実験するのですが、この「こういう条件の時に」は独立変数で、「どんな結果になるか」は従属変数と呼びます。

 独立変数を考える時には、ステップ5の下調べがものをいいますね。リョウさんたちは「お皿の色」でいろいろ条件を分けてみることにしました。お皿以外の要素は全て同じにする必要がありますから、おなかの空き具合、食べる時間帯、ハンバーグの量や味付け、できれば複数の子どもに食べてもらいたいところです。

 従属変数は、「測定可能なもの」にすることが大事です。ハンバーグの作り手が「ねえ、このハンバーグおいしかった?」と尋ねるのでは、たとえおいしくなくても「うん、おいしかったよ」という返事をせざるを得ないかもしれません。

 もう少し客観的な指標にした方がよさそうです。あまりにおいしい場合には、人はペロリとたいらげてしまうかもしれませんね。食事時間を計るというのもよさそうです。

 また、ハンバーグの食べ残し量を測定するとしたら、1個は何グラムにするとよいでしょうか。あまりに小さなハンバーグ1個なら、多少おいしくなさそうに見えても食べ切れるかもしれません。どんなお皿に乗せるかという条件が違ったところで、全部完食されては何もわかりません。

 こんなふうに従属変数を決めるのはけっこう難しいのです。いろんな可能性を話し合いながら親子で考えてみましょう。ひとりでは気づかないつまずきがあるはずです。

 こうして条件が決まったら、いよいよ研究開始……と行きたいところですが、最後にもう一つ、決めておくことがあります。

 現代の小学生は本当に忙しいです。親も忙しいです。そんな忙しい日々の中、この研究を「いつ、どこで、誰と」行うかを、具体的に計画する必要があります。

 ハンバーグを食べる実験に参加してくれる人は? 親戚の集まりでもいいですし、誰かの誕生日をきっかけに集まるのでもいいでしょう。そこで実験も兼ねてしまうのもいいかもしれません。

 今回の実験は単発で終わるものですが、「毎日アサガオを観察する」といった継続型の自由研究の場合には、毎日のルーティン(朝ご飯、ラジオ体操など)とセットにしてしまうとうまく習慣づけられます。ベランダにあるアサガオの鉢まで移動して、その後窓の近くに設置した記録表とペンで記録をつけて、リビングに戻ってくる……のように、動線上に観察記録用紙を設置する「ものの仕組み」も大切です。

 根性だけに頼らず、継続しやすいしくみを作ってチャレンジしてみましょう!

 いかがでしたか?

 ぜひこの夏、親子でチャレンジしてみてください。

    ◇

 もっと自由研究や読書感想文の進め方について知りたい方は「マンガでわかる 精神論はもういいので怒らなくても子育てがラクになる『しくみ』教えてください」(主婦の友社)も参考になさってください。https://www.amazon.co.jp/dp/4074507668/別ウインドウで開きます(中島美鈴)

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    氏岡真弓
    (朝日新聞編集委員=教育、子ども)
    2022年7月8日7時48分 投稿
    【提案】

    【これ、すごい!】 そうだ、自由研究は「研究」なのです。 ここに示されたステップは、夏休みの研究に限らず、総合的な学習の時間のテーマ学習、高校の探究学習、そして大学での研究につながる手法です。ADHDの主婦リョウさんの助けになるだけでな

    …続きを読む
中島美鈴
中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。